x86から、その先へ:アーキテクチャの選択

From x86… and Beyond: the Architecture Question

約50年にわたり、「サーバー」と「x86」は、ほぼ同じ意味で使われてきました。企業のサーバールームから大規模なハイパースケールデータセンターまで、Intelのx86アーキテクチャが標準となっていた最大の理由は、何よりも成熟したエコシステムにありました。ほとんどあらゆるソフトウェアが、その上で動作していたのです。

しかし、今やx86が標準であることは、必ずしも当たり前ではなくなっています。

クラウドコンピューティング、AI、そしてハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の普及により、業界ではプロセッサに求められるものが見直されています。ARMはデータセンターへと進出し、RISC-Vはオープンなプラットフォームとして成熟を続けています。また、LoongArchのような新しいアーキテクチャの登場は、プロセッサの選択肢が減るどころか、多様化していることを示しています。

ここで重要なのは、あるアーキテクチャが別のアーキテクチャに取って代わるという話ではありません。複数のプラットフォームが共存し、それぞれが異なる用途に最適化されるエコシステムが、再び形成されつつあるということです。

それを可能にしているのがLinuxです。Linuxは、どのアーキテクチャ上でも一貫した動作環境を提供します。そのため、その上で動作するソフトウェアを壊すことなく、さまざまなプロセッサを利用できるのです。

性能から効率へ

長年、プロセッサの進化は、ひとことで言えば「より多く」でした。クロック周波数を高め、コア数を増やし、ベンチマークのスコアを向上させることが重視されてきたのです。

しかし、その状況は変わりました。

AI、クラウド、HPC、分散型サービスはいずれも、より大きな処理能力を必要としています。一方で、消費電力、冷却、運用コストといった現実的な制約も伴います。現代のデータセンターでは、利用可能な電力が、純粋な計算性能と同じくらい重要な設計要素になっています。

そのため、業界の関心は、単純な性能の追求から、持続可能な性能へと移りつつあります。もはや目標は、最も高速なチップを作ることだけではありません。処理能力、消費電力、システム全体の効率を、最も適切なバランスで実現することです。

ARMやRISC-Vが注目されるようになったのは、まさにこの変化が背景にあります。x86が時代遅れになったからではありません。さまざまな処理を行うには、それぞれに適した選択肢が本当に必要だからです。

今日、問うべきなのは「どのプロセッサが最も速いのか」ではなく、「この処理には、どのプロセッサが最も適しているのか」ということです。

現在の主要なアーキテクチャを知る

ここでは、この記事で取り上げる各プロセッサアーキテクチャについて、詳しく見ていきます。

x86:今なお標準であり続けるアーキテクチャ

40年以上にわたり、x86はPC、ワークステーション、サーバーの標準的なアーキテクチャであり続けてきました。64ビットへの移行(x86-64またはAMD64)によって、他に類を見ないソフトウェアとハードウェアのエコシステムが形成され、Linuxもその発展とともに成長してきました。

この成熟度こそが、x86-64が現在でも多くの企業システムにとって安心して選べる選択肢である理由です。かつてのように、x86だけが選択肢というわけではなくなっていますが、その地位は依然として揺らいでいません。

ARM:消費電力あたりの性能

ARMは、組み込みシステムやモバイル機器の分野から始まりました。その後、IoTやエッジコンピューティングへと用途を広げ、専用のエンタープライズ向けプラットフォームを通じて、データセンターにも進出しています。

現在、ARMに対するLinuxのサポートは十分に成熟しています。同じLinuxディストリビューションや、ほぼ同じアプリケーションを、ハードウェアの構成が大きく異なる環境でも動作させることができます。

消費電力を後から考慮するのではなく、設計段階から重要な要件として扱う場合、ARMは有力な選択肢となります。

RISC-V:オープンであることが強み

RISC-Vは、今回取り上げるアーキテクチャの中では最も新しく、特に興味深い存在の一つです。

x86やARMとは異なり、RISC-Vの命令セットアーキテクチャ(ISA)はオープンです。そのため、大学、企業、研究機関などは、ライセンスを取得することなく、独自のプロセッサを設計できます。

このオープン性は、組み込みシステム、エッジコンピューティング、特定の処理に特化したアクセラレーターなどの分野で、さまざまな実験や開発を促進しています。

Linuxは数年前からRISC-Vをサポートしており、そのエコシステムは急速に拡大しています。

LoongArch:新たな道筋

LoongArchはさらに新しいアーキテクチャであり、独立したハードウェアエコシステムを支えることを目指して開発されました。

x86やARMと比べると、現在の普及規模は小さいものの、新しいプラットフォームがオープンソースの世界で、いかに早くサポートを獲得できるかを示す例となっています。

LinuxカーネルはすでにLoongArchをサポートしており、対応するLinuxディストリビューションも増えています。

表1は、各プロセッサアーキテクチャの違いをまとめたものです。

アーキテクチャ 強み 主な用途
x86-64 互換性、成熟したエコシステム デスクトップ、サーバー、仮想化
ARM 消費電力あたりの性能 クラウド、エッジコンピューティング
RISC-V オープン性、カスタマイズ可能なISA 組み込みシステム、研究、IoT
LoongArch 独立した地域別エコシステム 特定の地域市場

表1:データセンターで利用される代表的なプロセッサ

ハードウェアを交換すること自体は簡単です。難しいのは、そのハードウェアを前提に構築されたソフトウェアを、引き続き動作させることです。

ここで、30年以上にわたって培われてきたLinuxの移植性が大きな力を発揮します。Linuxカーネルは初期の段階から移植性を重視して設計されてきました。そのため、Linuxディストリビューションやオープンソースソフトウェアの大部分も、利用者に従来の作業方法の変更を強いることなく、ハードウェアの変化に対応してきました。

サーバーを管理する場合でも、アプリケーションを開発する場合でも、Kubernetesクラスターを運用する場合でも、基盤となるアーキテクチャが変わることによる影響は、一般に想像されるほど大きくないことがよくあります。

Linux:変化の中で変わらない存在

新しいアーキテクチャへの移行は、プロセッサだけの問題ではありません。その周囲にあるソフトウェアスタック全体に関わる問題です。そして、Linuxが最も力を発揮するのは、まさにこの領域です。

Linuxカーネルのマルチプラットフォーム対応と、成熟したオープンソースの開発ツールチェーンのおかげで、さまざまなソフトウェアが主要なアーキテクチャ上ですでに利用できます。

例えば、GCCやLLVMなどのコンパイラー、Python、Go、Rustなどのプログラミング言語、DockerやKubernetesなどのプラットフォーム、そしてPostgreSQLやNGINXなどのソフトウェアです。

開発者、システム管理者、クラウド運用担当者にとって、これは、基盤となるプロセッサが何であっても、同じツール、同じワークフロー、そしてほぼ同じアプリケーションを利用できることを意味します。

新しいアーキテクチャ向けにコードを再コンパイルすれば、運用方法は基本的に変わりません。変わるのはCPUです。Linuxを使う体験は変わらないのです。

これから何が起こるのか

長い間、コンピューティングの世界は、デスクトップからサーバーまで、ほぼすべての分野で一つのアーキテクチャが支配的になるという、単純な前提のもとで動いてきました。

しかし、その前提はもはや通用しなくなりつつあります。計算需要の増大、電力の制約、そして用途に特化した処理の増加によって、業界はより多様なアーキテクチャが共存する方向へと向かっています。

私は、単一のアーキテクチャが他のすべてに完全に取って代わるとは考えていません。むしろ、それぞれの役割が徐々に定まっていく可能性が高いでしょう。

x86は汎用システムやエンタープライズシステムの基準であり続け、ARMは省電力が重視されるデータセンターやクラウドで存在感を高めていくでしょう。RISC-Vは組み込みシステムや、オープンでカスタマイズ可能なプロジェクトで活用され、LoongArchのようなアーキテクチャは、特定の地域に根ざしたエコシステムの中で成長していくと考えられます。

これは、x86の終わりを意味するものではありません。x86だけが独占的に使われる時代の終わりを意味しているのです。

数十年にわたる圧倒的な優位の後、コンピューティングの未来は、それぞれのアーキテクチャが得意分野に最適化されながら共存する世界になろうとしています。

Linuxは、どれか一つを勝者として選ぶ必要がありません。優れた移植性とエコシステムを備えているため、すでにすべてのアーキテクチャ上で動作できるように作られているからです。

もし業界が、x86時代の始まり以来ともいえる大きなアーキテクチャの転換期を迎えているのだとすれば、その功績は新しいチップだけに帰せられるものではありません。30年以上にわたり変化に適応してきた、ソフトウェアのエコシステムにもあるのです。

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Author

  • Simone Bertulli

    Simone "Simo" Bertulli is a Cyber Security Expert and a Linux Enterprise Specialist; he started working on Linux systems since 2012, then extending his interest to the whole open source world, also creating a community in the Italian reality. Discovering the potential of open source software and the new opportunities they can create in the workplace is a stimulus for this passion, which brings with it the sustainability of technical solutions and professional skills. In the Cyber Security field he works in a SOC and has collaborated with the Packt publisher on the technical reviews of some video courses about blue team activities. In his spare time he takes technical certifications on various IT topics ("never stop learning" is his motto) and he likes to experiment with new technologies about security and virtualization for SOHO & Enterprise environments.

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