Linuxユーザーグループ(LUG)や「フェスト(Fests)」には1990年代半ばから参加してきましたが、実は今年2025年が私にとって初めてのLinuxFest Northwest(LFNW)でした。そして今では、これまで参加してこなかったことを心から後悔しています。
ひとつ、確信したことがあります。それは、ディストリビューションの変化、デスクトップやサーバー市場の変動、クラウドとオンプレミスのせめぎ合い――そんなテクノロジーの潮流がどう変わろうとも、Linuxコミュニティのイベントには常に「生きた熱量」があるということです。
そして今年はとりわけ特別でした。LFNWも、Linux Professional Institute(LPI)も、ともに創設25周年という節目の年を迎えたのです。
しかも、ただ「存続してきた」というだけではありません。フェストはエネルギーに満ちあふれ、まさに爆発的な盛り上がりを見せていました。
私は今回、「ポスト量子暗号でWebサーバーを守る」というテーマで講演する機会をいただきました。予想外にも会場は満員となり、終了後も廊下で深い議論が続くほどの関心を集めました。
ただ、私にとって本当に心を動かされたのは、他の登壇者たちの声でした。Linuxがいかにスーパーコンピューティングを制覇してきたか、ソフトウェアの公平性に関する研究、Pythonコミュニティにおけるマイノリティの声、そして米国初の黒人ソフトウェアエンジニアの物語。さらには、RockyやCentOS、Alma、NixOS、Azureなど、エンタープライズおよびデスクトップ向けLinuxディストリビューションの最新動向まで――幅広い分野のトピックが目白押しでした。
ベテランと新人、どちらの発表にも独自の魅力がありました。2日間のイベントの締めくくりには、提供企業による製品の寄付を活用したチャリティーラッフル(抽選会)も行われ、次回開催への支援にもつながっていました。
このフェストで、私は改めて「なぜ自分はオープンソースの世界に入ったのか」を思い出しました。
私が初めて東京のLUG(Linuxユーザーグループ)に参加したのは1995年。当時、私はまだLinuxそのものに夢中だったわけではありません。英語を話せる人とつながりたい、安くて美味しいレストランの情報を交換したい、大都会・東京を少しでも「身近な場所」に感じたかった――それが最初の動機でした。
そこで出会ったのは、単にソフトウェアを作っているだけではない人たち。知識を共有し、助け合い、共通の目的に向かって進もうとする仲間たちでした。あれ以来、私はずっとこの世界の一員です。
フェストの最後を飾ったのは、LPIの理事仲間でもあるオープンソースの伝説的人物、Jon “maddog” Hallの基調講演でした(セッションの多くは、LFNWのボランティアチームが録画・編集してくれています)。彼の講演はいつも「ただのトーク」ではなく、行動を促すメッセージであり、振り返りであり、祝福でもあります。
その前には、Beowulfクラスターの生みの親であり、初期のLinuxカーネル開発にも関わったDonald Becker氏が登壇。「Linuxはいかにしてスーパーコンピューティングを制したのか」という講演では、Beowulfだけでなく、Linuxカーネルやオープンソース全体の歴史と、性能を重視することで生まれた今日のLinuxの圧倒的な地位についても語られました。
LFNWの魅力は、ハンズオンのブートキャンプ「Godotで初めてのゲームを作ろう」や、新興ディストリビューション(StillOSや…驚くなかれ、Microsoft Azure Linux!)の紹介セッションなど、多岐にわたる技術トピックにあります。
しかし、技術だけではありません。「物語」もまた、大きな柱です。
たとえば、Clyde Ford氏が語った米国初の黒人ソフトウェアエンジニア――自身の父、ジョン・スタンリー・フォード氏の話。私はこのセッションが心に深く残りました。
LFNWの本当の魅力は、セッションとセッションの間にあります。
たとえば、LPI資格を初めて取得したばかりの人と朝食を囲みながら話す時間。ディストロ論争を熱く、でもユーモアを忘れずに語り合う夜の食事。オン・オフの境界が曖昧な集まりで生まれる、予期せぬ出会いやアイデア――それこそが、人間味あふれる「フェスト」の真髄です。
今年のフェストは、オンラインでは絶対に得られない感覚を思い出させてくれました。Linuxが好きな人たちが、同じ空間に集まることの意味。スクリプトにない質問が飛び交い、廊下でのデモが副業や新しい職につながる。まさに、それが「魔法」です。
会場のあるベリンガムは、シアトルやカナダ・バンクーバーから車で約2時間の場所にある、のんびりした港町です。大型モールやチェーン店は少ないものの、地元経営の良質なレストランやパブ、ショップにあふれています。フェストでは毎晩イベントが組まれていましたが、私は空き時間に街のレストランやショップを巡ったり、ベリンガム湾越しの美しい夕日を堪能することもできました。
近隣にはサンフアン諸島、スカジット・バレーのチューリップフェスティバル、ベーカー山などもあり、フェストの前後に観光も楽しめるロケーションです。
2025年は、LPIにとっても創立25周年という記念すべき年でした。
会場に設置したブース、周年ポスター、配布した割引コード――すべてが単なる販促ではなく、「LPIの中立的な資格は、いつも”人”のためにある」という原点の再確認でした。
キャリアチェンジを支援し、学びたい人に道を開き、コマンドラインと好奇心を武器に未来を切り拓く手助けをする。そんなLPIの理念は、会場でもしっかり伝わっていたように思います。
実際、今回のフェストでLinux Essentials試験に合格したばかりという参加者にも何人も出会いました。また、過去のLFNWでLPIを知ったという人も少なくありません。こうした**「長期的なインパクト」**こそ、私たちが目指しているものなのです。
このフェストの「真のヒーロー」は、やはりボランティアの皆さんです。
AVチーム、字幕制作チーム、会場の接続トラブルを夜遅くまで解決してくれた皆さん――彼らのおかげで、イベントは誰にとってもアクセス可能でスムーズなものになりました。
特に、LFNWの運営を支えてくれた地元ボランティアの方々には深く感謝しています。ベルリンガム工科大学の学生ボランティアも含め、リモートでの調整が必要な中、ミーティングや各種連携をスムーズにこなしてくださったことは、Dublin在住のLPIイベントマネージャーMax Roveriや、ドイツ在住のマーケティングマネージャーBjörn Schönewaldにとっても非常に助けになりました。
LFNWの**「変わらず続くこと」こそが、その力の源だと感じています。このフェストは、シアトルのSeaGLなど他のイベントのモデルとなり、今でも太平洋岸北西部のFOSS文化の礎**であり続けています。
ここは、オープンソースをただ「祝う」のではなく、「支える」場所なのです。
次はどうなるでしょう?
――きっと、また25年続くはずです。
もっと廊下での雑談を、もっと予想外のアイデアを、もっと「Linuxでこんなこともできるの!?」という驚きを。
またベリンガムでお会いしましょう。絶対に、行かない理由なんてありませんから。
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