オープンソースで実現する整理されたチームチャット:Zulip紹介

Organized Team Chat the FOSS way: Meet Zulip

組織の成功に不可欠な「コミュニケーション」を再定義する──Zulip創業者 ティム・アボット氏インタビュー

コミュニケーションは組織の成功に欠かせない要素ですが、その実現は常に課題となっています。
Zulipは、この課題に革新的なチームチャットプラットフォームで挑んでいます。
今回は、Zulipの創業者でありCEOのティム・アボット氏に、Zulipがどのように会話を構造化して効率を高めているのか、そして特に分散チームにとってどのような利点があるのかを伺いました。
本インタビューでは、Zulip誕生の背景、主要な技術的特徴、そして導入による実際の効果について深く掘り下げます。


Zulip誕生のきっかけと、「整理されたチームチャット」を発想した背景を教えてください。

Zulipのアイデアは、「構造化されたチャット」がグローバルで複雑なチームにおけるコミュニケーションをどれほど改善できるかを実感したことから生まれました。
私の最初のスタートアップであるKspliceが2012年にOracleに買収された後、チームは分散型の働き方へ移行しました。その経験を通して、リモートワークをいかに成功させるかを真剣に考えるようになったのです。
他のエンジニア仲間と話す中で、多くの人が既存のチャットツールに不満を抱いていることがわかりました。それらは往々にして混乱を招き、注意をそらすものでした。
Zulipの根本的な発想は、「メッセージをテーマごとの会話として整理する」ことでこの問題を解決できるというものでした。これにより、特にリモートや非同期型のチームでも、より効果的なコミュニケーションが可能になります。


SlackやMicrosoft Teamsなどの従来型チャットと比べて、Zulipの「チャンネル」と「トピック」による構造化はどのように効率を高めているのですか?

Zulipは、メッセージをトピック(話題)ごとに整理することで、ユーザーが一度に一つの議論に集中できるようにしています。
各チャンネル内の会話には明確なトピック名が付けられており、これにより直感的で整理された操作体験が得られます。
ユーザーは未読の会話をすぐに確認でき、どの議論に返信すべきかを簡単に優先づけできます。
この構造のおかげで、従来のチャットシステムのように膨大なメッセージの流れに圧倒されることなく、効率的でストレスの少ないコミュニケーションが実現します。


時間が経ってもスムーズに会話を再開できるZulipの「文脈保持」を支える技術的特徴について教えてください。

Zulipのトピックベースの会話構造は、ユーザー体験の中核を成しています。
ユーザーは関心のあるトピックをフォローしたり、ミュートしたり、管理したりすることができます。
また、メッセージを別のトピックやチャンネルに移動できる機能もあり、会話の流れが途中で変化しても整理された状態を保てます。
さらに、自動クロスリンクや永久リンクといった機能により、会話が移動しても参照先が常に正確に保たれます。
これらの設計により、チームは必要な会話を追いやすく、柔軟で一貫性のあるコミュニケーション環境を維持できるのです。


Zulipは「よりスマートで強力」と評されています。その優位性を示すユーザー事例やフィードバックを紹介してもらえますか?

Zulipの真の強みは、会話に明確な構造を与えることで、従来のチームチャットソフトでは不可能、あるいは非常に手間がかかるような形でユーザー同士がコラボレーションできるようにする点にあります。

たとえば、ソフトウェアコンサルティング企業 EndPoint Dev は、Zulipがどのようにして自社の数百もの業務ストリームを管理するのに役立っているかを、ケーススタディで詳しく紹介しています。

同社のマネージャーの一人は「Zulipは私の命綱です」と語っています。

組織内でリーダーや専門家ほど多忙になるほど、SlackやTeamsのようなチャットツールを使いこなすのが難しくなります。
しかしZulipでは、リーダーが組織全体の動きをより明確に把握できるようになります。
たとえば、より多くのチームメンバーの作業内容を詳細に理解したり、数百人規模のオープンソースプロジェクトをストレスなく管理できるようになるのです。


他のプラットフォームからZulipへ移行することで、生産性が向上したという声があります。どのような効果やデータが得られていますか?

2024年現在、多くの知識労働者は毎日数時間をチームチャットでのやり取りや、その通知による中断に費やしています。
そのため、コミュニケーション効率がわずかでも改善されれば、集中して専門的な仕事に使える時間が大きく増えるのです。
私たちのユーザーからは、「Zulipを導入してから、高品質な集中作業と意思決定への参加の両立が可能になった」という声を多くいただいています

Zulipは、リーダーが自分の仕事に集中しながらチームとの関わりを保つのに最適です。
多くの会話を簡単に参照しながら、重要な情報を見失わずに対応できます。
たとえば私自身、日中のほとんどは集中作業をしていますが、過去24時間でZulip開発コミュニティ内の72の会話を読み、その多くに実際に参加しました。
このような機能により、リーダーは全体像を把握しつつ、重要な業務にも専念できるのです。


Zulipでは「非同期的なコミュニケーション」が重視されています。これはどのようにリモートワークや分散チームを支援しているのでしょうか?

従来のオフィスでは、最適な人材が地理的・時間的な制約のために十分活躍できないことがあります。
リモートワークが一般化する中、多くの組織がその有効な運用に苦労しており、Amazonのように出社回帰の動きも見られます。

Zulipは、非同期的なやり取りをリアルタイムの会話と同じくらい自然に行えるよう設計されています。
メンバーは自分のタイミングで返信でき、異なるタイムゾーンをまたいでも生産性を保てます。
また、長期間オフラインだった場合でも、Zulipでは会話の全体像を整理された形で確認できるため、従来のチャットツールのように「未読が大量で追いつけない」といった問題が起こりません。


チームがZulipを中心に協働することで、会議に頼らず意思決定できるようになったと聞きます。どのような変化がありましたか?

会議は特に分散チームにとって高コストになりがちです。
調整や雑談に時間を取られ、作業の流れが中断されるうえ、参加者が多いほどそのコストは増大します。
Zulipでは、チャット内で直接質問や意思決定を行えるため、会議の頻度を大幅に減らすことができます。
また、メールのような煩雑なやり取りも最小限に抑えられ、チームはより効率的で集中した働き方を実現できます。


今後、チームコラボレーションやコミュニケーション効率をさらに高めるために、Zulipが予定している開発や新機能について教えてください。

最近、Zulip Server 9.0をリリースしました。詳細は公式ブログでも紹介していますが、現在の取り組みを概観するにはぜひおすすめです。

特に注目しているのは、Flutterで全面的に再構築されたiOSおよびAndroidアプリのリリースです。
Flutterは高速でスムーズなクロスプラットフォーム開発に最適なフレームワークで、ベータテストでも非常に良い結果が得られています。
この改善を早くユーザーの皆さんに届けたいと思っています。

さらに、ウェブサイトとオンボーディング体験も刷新しています。
Zulipを初めて利用する人でもスムーズに始められるよう、リソースへのアクセスを簡素化し、「移行の手順ガイド」を新たに用意しました。
このガイドは「他ツールからの移行は難しそう」と感じている人の不安を解消し、スムーズな導入を支援します。

もしあなたが、企業・オンラインコミュニティ・オープンソースプロジェクトなど、所属する組織でのコミュニケーションをより良くしたいと考えているなら、ぜひ一度Zulipを試してみてください。そして、感想を聞かせてください。

About Max Roveri:

Massimiliano "Max" Roveri is a writer, blogger, editor and social media manager. He started writing on the internet in the late '90s and he went back to the digital media in 2009. Since 2014 he lives in Ireland and, since 2015, he has been part of the LPI Italy team. He is professionally involved in cultural mediation projects, with an event management side, and in education projects as a professional and as a volunteer as well.  With a background in humanities and philosophy, he loves to address the ethical and social aspects of Open Source, with an approach that nods to Gregory Bateson and Robert M. Pirsig. Photo: uphostudio

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