2023年 13月 3月日 - By Björn Schönewald
サイバーセキュリティは「みんなの責任」
目を閉じて、「サイバーセキュリティインシデント」という言葉から思い浮かぶイメージや場面を想像してみてください。どのような光景が頭に浮かぶでしょうか。
その人の経験や専門知識によって、思い描くイメージはまったく異なるかもしれません。しかし、考え方に違いがあったとしても、セキュリティは私たち全員が共有すべき責任です。
テクノロジー業界での経験がない人であれば、サイバーセキュリティインシデントと聞いて、非常に頭が切れて高度なコンピュータースキルを持つ人物が、90年代のテクノミュージックをBGMに、光が飛び交う3D空間を駆け巡りながら企業のサーバーへ侵入していく――そんな光景を思い浮かべるかもしれません。
もしそんなイメージを思い描いたのであれば、それはハリウッド映画の影響でしょう。なぜなら、実際のサイバー攻撃は決してそのようなものではないからです。
もちろん、1995年公開の映画『ハッカーズ(Hackers)』(ジョニー・リー・ミラーと若き日のアンジェリーナ・ジョリーが出演)はカルト的人気を誇る作品で、とても楽しめる映画です。しかし、現実世界のほとんどのハッキングは、それほど高度なものではありませんし、ましてや面白いものでもありません。
ITの経験がある読者にとって、これから述べることは驚くべき内容ではないでしょう。しかし、IT業界で働いたことがない人にとっては、かなり衝撃的な話かもしれません。
メディアでは高度なハッキングのように報じられる事件でも、実際には単なる一本の電話だった、ということがあります。
それだけです。SGIのワークステーションで作られたような派手な映像演出など存在しません。
もちろん、現実には悪意を持った人々も存在します。業界では彼らを「脅威アクター(Threat Actors)」と呼びますが、彼らはハリウッド映画に登場するハッカーよりもはるかに厄介な存在です(アンジェリーナ、悪く思わないでください。当時はまだ新人でしたから)。
現実世界では、脅威アクターが不正にシステムへ侵入する方法は、企業内の誰かへの一本の電話であることがあります。
例えば、自分を社内のIT部門の人間だと名乗り、社員にパスワードを教えるよう求めるのです。たった一人でもパスワードを漏らしてしまえば、その会社は悪い意味でニュースになるかもしれません。
とはいえ、テクノロジーは非常に広範な分野です。数多くの専門領域で構成されており、それらを極めるには何十年もの時間がかかります。
幸いなことに、適切なセキュリティ対策を実践するために、テクノロジーの達人になる必要はありません。そして、現在どのような仕事に就いているかも関係ありません。
セキュリティは重要です。だからこそ、誰もが真剣に向き合うべきなのです。
多くの組織では、残念ながらIT部門とその他の従業員の間に隔たりがあります。本来、そのような隔たりは必要ありませんが、組織文化によっては実際に存在しています。そして、この隔たりこそが、最も大きな被害を生み出す原因になりかねません。
私たち自身を守るためには、全員が同じ認識を持ち、同じチームとして取り組む必要があります。
ITに詳しくない人にとって、コンピューティングの世界は時に煩わしく感じられるものです。
定期的なパスワード変更を求められ、同じパスワードの使い回しを禁止され、さらにアカウント保護のために多要素認証まで利用しなければなりません。
IT担当者にとって、これらは当たり前のことです。しかし、多くの従業員にとっては単なる面倒事に見えてしまいます。
「なぜIT部門は会社のサーバーを100%安全にできないのか?」
「なぜ利用者にこれほど手間をかけさせるのか?」
そう思う人も少なくありません。
多くの従業員は、ただ自分の仕事をこなしたいだけです。一日のうちに何度もGoogle Authenticatorを開くことなど、決して嬉しいことではありません。
しかし、問題は、セキュリティが決して単純ではないということです。推奨される対策自体はシンプルであっても、セキュリティという分野そのものは決して簡単ではありません。
ITの現場で働く私たちも、利用者に不便を強いたいわけではありません。しかし、多くの人にはそう見えてしまうのです。
実際には、企業のサーバーを管理している私たちも、他の人と同じことを望んでいます。できるだけストレスの少ない環境で仕事をしたいのです。
そして、他の人たちと同じように、自分の仕事を終え、できれば定時で退社して、みんなが話題にしている新作ヒーロー映画を観に行きたいと思っています。
しかし、ここで重要なのは、セキュリティはすべての人に関わる問題だということです。少なくとも、そうであるべきです。
セキュリティを真剣に考えることが、あなたの会社が今も存在している理由である可能性すらあります。
少し大げさに聞こえるでしょうか。確かに多少はドラマチックな表現かもしれません。しかし、それでも事実です。
たった一度のサイバーセキュリティインシデントが、組織全体の評判を傷つけてしまうことがあります。そして、その結果として利益が急落することは、皆さんも容易に想像できるでしょう。
2020年には、SNSサービスの X(当時のTwitter)がサイバー攻撃の被害を受けました。
テクノロジーメディアの The Verge によると、Twitterは「複数の従業員が電話によるスピアフィッシング攻撃の標的になった」と明らかにしています。
つまり、この攻撃は、19歳の天才ハッカーが暗号を解読して侵入したわけではありません。脅威アクターたちは、ただ電話をかけただけだったのです。
そうです。彼らは何本か電話をかけただけでした。
映画で描かれるセキュリティインシデントとは違い、そこには興奮するような要素も、娯楽性もありません。
多くの攻撃が一本の電話や一通のメールから始まることを考えると、脅威アクターはコンピューターの専門家である必要すらありません。
彼らは電話をかけてパスワードを尋ねるだけです。
そして、その後に混乱が始まります。
先ほど紹介したTwitterの事例は、数ある事例の一つにすぎません。
もちろん、未修正の脆弱性を悪用する高度なスキルを持つ脅威アクターも存在します。しかし、多くのセキュリティインシデントは、善意の従業員をだます単純な手口から始まります。この手法は「ソーシャルエンジニアリング」と呼ばれています。
そのため、企業内でどのような役割を担っているかに関係なく、セキュリティは全員の責任なのです。
組織のセキュリティは、最も弱い部分以上に強くなることはありません。
たった一人が悪意のあるリンクをクリックしたり、非常に巧妙でありながら偽の電話を本物だと信じたりするだけで、被害は発生してしまいます。
では、解決策は何でしょうか。
答えは「教育」です。
教育はすべての人に力を与えます。そして、エンドユーザーが適切な教育を受けていなければ、ソーシャルエンジニアリング攻撃に引っかかってしまう可能性は、皆さんが思っている以上に高いのです。
しかも、この問題は今後さらに深刻になっていくでしょう。
IT業界は時に複雑ですが、利用者を教育することで、私たちはより安全な環境を実現できます。
組織におけるセキュリティ教育は、極めて重要な取り組みとして真剣に行うべきです。
チームメンバーに対して、直面し得るさまざまなセキュリティ脅威への対処方法を教えてください。
IT分野で働く読者の皆さんには、特にこの点を意識してほしいと思います。
不確実な状況に遭遇した際に何をすべきかを教えるだけではなく、なぜそれが重要なのかも伝えてください。
パスワードポリシーを通知するだけではなく、なぜそのポリシーが存在するのかを説明しましょう。
セキュリティ研修では、実際の事例を紹介し、現実のサイバーセキュリティインシデントがどのように発生するのかを具体的に示してください。
「サイバーセキュリティ侵害」といったキーワードでインターネット検索をすれば、被害を受けた企業の事例を扱ったニュース記事を数多く見つけることができます。
パスワードポリシーが存在しない場合に何が起こり得るのかを具体例とともに示せば、従業員はその重要性をより理解してくれるかもしれません。
さらに、本物だと信じてメール内のリンクをクリックしてしまった結果、企業がどのような被害を受けたのかという事例も紹介してください。
つまり、会社のルールを伝えるだけでは不十分です。
なぜそのルールが存在するのか、そして守らなかった場合に何が起こり得るのかを、全員が理解できるようにすることが重要なのです。
私たちの生活や仕事を守るためには、全員が同じチームとして取り組む必要があります。
適切なセキュリティ対策を実践することは、私たち全員が共有する責任なのです。
上記で紹介したTwitterのセキュリティインシデントの参考記事:https://www.theverge.com/2020/7/30/21348974/twitter-spear-phishing-attack-bitcoin-scam
LPIの「Security Essentials」認定資格について詳しくはこちらをご覧ください。
<< 本シリーズの前の記事を読む | 本シリーズの次の記事を読む >>